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今、旬の話題を中心に独自の切り口、考えを、一度は創作の分野で原稿料をもらった筆力をもって展開していきます。

大江戸釣客伝(夢枕獏)と雲霧仁左衛門(池波正太郎)どちらが、――

表題、どちらが、に続けさせたいのは、自分の中で今年NO1(ナンバーワン)のエンターテインメント小説になるのだろうか?である。

 

まずは、大江戸釣客伝(上下巻)夢枕獏、著(新潮文庫

読みは、おおえどちょうかくでん、である。

 

読んだのは、夏の初め頃。著者の夢枕獏、かなり以前から(小説現代など雑誌に作品の掲載していた作家さんなので)名前は知っていたが、著作を購入したのは、今回が初めてである。

赤の帯に3冠受賞作!という文字が大きく白抜きされている。

3冠とは、(第46回)吉川英治文学賞、(第39回)泉鏡花文学賞、(第5回)船橋聖一文学賞のことである。

 

ストーリーは、徳川綱吉が治める元禄時代。釣りの楽しさにとりつかれた男達がいた。芭蕉の弟子の俳人、宝井其角。絵師、多賀朝湖、(日本最古の釣り指南書を記した)旗本、津軽うなめ(漢字が出て来ないので、ひらがな)などがそれである。

徳川綱吉の時代と言えば、「生類憐みの令」である。魚も生き物である。釣り船禁止令(漁民は別)が出される。

そんな時代に彼らは、どう釣りという趣味と向き合ったのか。

ストーリーを的確な文章で展開していく。過不足ない文章という言葉があるが、まさにそれを感じさせた。描写のよさは、作者自身が大変な釣り好きであることにも裏打ちされているのだろう。

私は、全く釣りをしないが、おそらく、この小説が今年の自分の中で1番の作品になるだろうと、確信めいたものを感じたのだった。

 

ところが、ところが、である。

ここにきて、私の確信めいた気持ちが揺らぎ始めた。

 

数日前、書店で何か本を買いたいな、歩いていたら、

雲霧仁左衛門(上、下巻)池波正太郎、著(新潮文庫)が、目に止まった。

上巻を購入。

 

池波正太郎の時代小説を読むのは久しぶり、剣客商売の以来である。

剣客商売、実際読んだのは、シリーズの一部でしかないが、

読みやすく、時代小説を読む楽しさを教えてもらえた。

 

雲霧仁左衛門は、人を殺すことなく、用意周到を施して豪商の蔵から大金をせしめる盗賊である。

今回の狙いは、名古屋で薬種屋(読み、くすりや)(と言っても大変な豪商)を営んでいる、松屋吉兵衛の金蔵である。その小判の量、ひょっとしたら、2万両と雲霧は睨んでいる。

雲霧が仕掛けた罠は、七化けのお千代という女を松屋吉兵衛に近づけるというものだった。

七化けのお千代にメロメロになる松屋吉兵衛。

その一方で、雲霧に幾度も煮え湯を飲まされた火付盗賊改方の一同も

必死に彼の姿を追いかける。

舞台は江戸から名古屋へ。

 

池波正太郎は、読者を楽しませる術(すべ)を知り尽くしているようである。

ストーリーをスリル満点、読みやすい文章で進めていく。

このあたりで、といったん本を閉じるが、続きが知りたくて、

また本を開いてしまう、といった感じで上巻を読み切ってしまった。

 

面白い。これ以上、この小説にぴったりの表現はないように思える。

 

本を購入する時は、そのことは頭になかったのだが、NHKのBSプレミアムでドラマ化されたとのこと。昨日あたりから、盛んにNHK総合で案内されている。本日、10月4日が第1回の放送日である。

雲霧仁左衛門役を中江貴一、七化けのお千代を内田理奈名が演ずる。

BSを契約していない私である。思わず、しようか、という気持ちにかられる。

何で、総合でやってくれないんだ、の気持ちでもある。

とに角、下巻を購入しよう。

 

「大江戸釣客伝」と「雲霧仁左衛門」、甲乙つけがたし、となりそうであるが、一年に複数の心底楽しめる時代小説を読めたことは嬉しい限りである。